2026年の現在、私たちの生活にすっかり定着したスマートフォン中心の消費文化やSNS発信のスタイル。その決定的な分岐点となったのが2017年でした。国内のスマートフォン普及率が7割を突破し、生活者の視線がテレビ画面から手のひらの液晶画面へと急速にシフトしたタイミングでもあります。
日常のあらゆる風景が「他者との共有」を前提に再構築され、ネット発のミームやカルチャーが既存マスメディアを呑み込んでいった激動の1年。あれから約9年の歳月が流れたいま、あの熱狂は何を残し、私たちの生活をどう変えたのでしょうか。当時の世相を彩ったトレンドの真相と、ブームのその後に迫ります。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:2017年の新語・流行語大賞を制した「インスタ映え」と「忖度」は、承認欲求主導の消費行動と、政治・社会の閉塞感を鮮烈に浮き彫りにした。
- 要点2:Nintendo Switchの登場やチーズタッカルビの爆発、ハンドスピナーの席巻など、体験とビジュアルの共有がヒットの必須条件となった。
- 要点3:2026年の視点で見ると、ショート動画時代や個人の発信経済へとつながる「現代カルチャーの原型」が2017年に完成していたことがわかる。
【2017年流行語大賞】「インスタ映え」の理由と「忖度」元ネタの真相
2017年の「ユーキャン新語・流行語大賞」で年間大賞に輝いたのは、「インスタ映え」と「忖度(そんたく)」の2語でした。この2つの言葉が並び立った事実こそ、当時の世相を極めて象徴的に表しています。
「インスタ映え」が社会現象化した最大の理由は、Instagramが単なる写真加工・共有アプリの枠を超え、若年層の行動指針そのものへ進化した点にあります。「写真を撮るためにカフェに行く」「色鮮やかな断面(萌え断)を撮影するために行列に並ぶ」といった逆転現象が発生。原宿や新大久保にはフォトジェニックな壁面アートやカラフルなスイーツが溢れ、企業側も製品開発の初期段階から「写真に撮ったときの映え感」を意識せざるを得なくなりました。視覚的なインパクトが購買のトリガーになる時代の幕開けです。
一方、もうひとつの大賞「忖度」は、政治スキャンダルに端を発した強烈な皮肉を帯びた言葉でした。元ネタの真相は、学校法人森友学園への国有地売却問題を巡る国会追及と、学園前理事長の証言にあります。権力者の明確な指示がないまま、周囲の官僚や関係者が意向を先回りして配慮したのではないか――という疑惑が連日ワイドショーを独占しました。
古くからある漢語でありながら、一般には馴染みの薄かった「他人の心情を推し量る」という意味の言葉が、組織の不条理や日本型コミュニケーションの病理を突くキーワードとして定着。「忖度御前」や「忖度まんじゅう」といったパロディ商品が飛ぶように売れるなど、ブラックユーモアを交えた消費文化にまで波及しました。
【ガジェット・トイ】Nintendo Switch発売当時の衝撃とハンドスピナーの現在
日経MJが発表した2017年ヒット商品番付で東の横綱に君臨したのが、任天堂が3月3日に送り出したNintendo Switchでした。
前世代機Wii Uの販売不振から任天堂の復活を賭けた挑戦でしたが、発売当時の熱狂は凄まじいものがありました。「据え置き機でありながら持ち運べる」という独自のハイブリッド設計は、リビングのテレビを専有できない現代人の生活リズムに完全に合致。同時発売の『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が国内外のゲームアワードを総なめにする歴史的傑作となったことも追い風となり、家電量販店には早朝から数千人規模の抽選列が形成されました。夏に投入された『スプラトゥーン2』の社会現象も重なり、年末商戦まで深刻な品薄が続いたほどです。
トイ市場でSwitchと並ぶ爆発力を見せたのが、手のひらサイズの金属製玩具ハンドスピナー(Fidget Spinner)でした。中央部をつまんでベアリングの力でただ回転させるだけという極めてシンプルな構造。アメリカの学校で集中力を高めるツールとして爆発的な人気を獲得した波が日本へ上陸すると、ドン・キホーテやガチャガチャ、露店にまで大量に並び、誰もが指先でシャーッと回し続けました。
あれから時間が経った現在、ハンドスピナーはどうなっているのか。一過性のブームとしては完全に沈静化しましたが、玩具の歴史から消滅したわけではありません。「フィジェットトイ(手持ち無沙汰を解消するアイテム)」という新たなジャンルを確立し、2026年の現在でも仕事中のストレス解消グッズやEDC(Everyday Carry=日常携行品)ギアとして、高精度ベアリングを搭載したハイエンドモデルがコアな愛好家の間で愛され続けています。
【食とライフスタイル】チーズタッカルビ流行の経緯と「うんこ漢字ドリル」人気の理由
2017年のグルメシーンを牽引した絶対王者といえば、チーズタッカルビです。この料理が爆発的に流行した経緯には、当時の新大久保エリアの地殻変動と「インスタ映え」の相乗効果がありました。
甘辛いコチュジャンで味付けした鶏肉と野菜を鉄板で炒め、中央に溶かした大量のモッツァレラチーズやチェダーチーズを絡めて食べる韓国料理。熱狂の引き金となったのは、新大久保の韓国料理店「市場タッカルビ」をはじめとする各店が導入したUFO型の専用鉄板でした。加熱されてぐつぐつと沸き立ち、箸で持ち上げると黄金色のチーズがどこまでも長く伸びる様子は、スマートフォンカメラの格好の被写体となりました。静止画だけでなく、Instagramの「ストーリー機能」の普及と完璧にタイミングが噛み合い、若者たちが動画を次々に投稿。新大久保は連日、数時間待ちの行列で埋め尽くされました。
書籍の分野で空前のミリオンセラーを叩き出したのが、文響社が刊行したうんこ漢字ドリルです。小学校6学年分の全3018例文すべてに「うんこ」という言葉を使用するという前代未聞のコンセプトは、教育界に大きな衝撃を与えました。
人気の理由は、単なる下品なウケ狙いではなく、緻密に計算された学習メソッドにありました。小学生男子を中心に「うんこ」という言葉自体が持つ圧倒的な求心力を逆手に取り、「勉強させられる苦痛」を「思わず笑ってしまうエンタメ」へ転換。例文の文脈も「春の風にのって、うんこが飛んできた」などシュールかつ文法的に正しく構成されており、保護者や教育関係者からも「子どもが自発的に机に向かうようになった」と絶賛を集めました。学習参考書の常識を覆し、シリーズ累計数百万部を突破する金字塔を打ち立てたのです。
【エンタメ・ブレイク】ブルゾンちえみ「35億」と登美丘高校「バブリーダンス」の旋風
バラエティとお笑い界を席巻したのは、元旦深夜の『ぐるナイ おもしろ荘』で彗星のごとく現れたブルゾンちえみでした。
両脇に後輩芸人「with B(ブリリアン)」を従え、タイトなスカートにボブヘア、濃いめのメイクというスタイル。アメリカの歌手オースティン・マホーンの楽曲『Dirty Work』の重厚なビートに合わせ、「地球上に男は何人いると思っているの?……35億」と呟く上から目線のキャリアウーマンネタは、瞬く間に全国の視聴者を虜にしました。自己肯定感を高めてくれる心地よい言葉選びとスタイリッシュなリズム感は、学生からOLまで幅広い共感を呼び、同年の『24時間テレビ』チャリティーマラソンランナーに抜擢されるなど、まさに時代の顔となりました。
ダンスカルチャーでは、大阪府立登美丘高校ダンス部による「バブリーダンス」がYouTubeを起点に世界的なバズを巻き起こしました。
第10回日本高校ダンス部選手権で準優勝を果たした彼女たちのパフォーマンスは、1980年代のバブル期を想起させる肩パットスーツ、ソバージュヘア、派手なメイクをまとい、荻野目洋子の名曲『ダンシング・ヒーロー』に合わせて超人的なスピードとキレでシンクロするというもの。振付を担当したアカネキカク(akane氏)の卓越した構成力と、女子高校生たちが放つ圧倒的なエネルギーが国境を越えて拡散されました。荻野目洋子本人とのコラボレーションやNHK紅白歌合戦への出場、さらにセンターを務めていた伊原六花が本格的に俳優の道を歩み始めるなど、部活動の枠を完全に超越したエンタメの革命でした。
【カルチャー&音楽】『けものフレンズ』社会現象と2017年ヒット曲ランキングの地殻変動
深夜アニメの枠から突如としてネットカルチャー全体を揺るがすビッグウェーブとなったのが、2017年1月期に放送された『けものフレンズ』でした。
放送開始当初はノーマークだった低予算3DCGアニメでしたが、動物が擬人化した「フレンズ」たちが繰り広げる「すごーい!」「きみは〜が得意なフレンズなんだね!」といった肯定感に満ちた優しい世界観が、日々の生活に疲弊したネットユーザーの心を直撃。「IQが溶ける」と称される一方で、荒廃したサファリパークの背景描写からディストピア的な世界観を読み解く考察合戦がSNS上で過熱しました。多摩動物公園や東武動物公園とのコラボレーションには全国からファンが殺到し、フレンズのパネルを見つめ続けたフンボルトペンギンの「グレープ君」の物語は海外メディアでも報じられるほどの感動を呼びました。
音楽界では、ストリーミングサービスの台頭に伴い、ヒット曲ランキングの測定基準がCDの販売枚数から再生回数へと本格的に移行し始めた過渡期でした。
| 楽曲名 | アーティスト | 2017年の主なトピック |
|---|---|---|
| 打上花火 | DAOKO × 米津玄師 | 映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』主題歌。ストリーミングとYouTubeで驚異的ロングヒット。 |
| インフルエンサー | 乃木坂46 | ミリオンセラーを達成し、日本レコード大賞を受賞。グループの黄金期を象徴。 |
| Family Song | 星野源 | 前年の「恋」の大爆発に続き、多様な家族のあり方を歌いチャート1位を獲得。 |
| シェイプ・オブ・ユー | エド・シーラン | 世界中で記録を塗り替え、日本国内の洋楽チャートでも圧倒的な独走状態を維持。 |
さらに秋には、平成の歌姫・安室奈美恵が2018年9月での引退を電撃発表。オールタイム・ベストアルバム『Finally』が発売からわずか2カ月でミリオンを突破し、日本中に激震が走るなど、音楽シーンのひとつの時代が大きな区切りを迎えた年でもありました。
【検証・現在の状況】9年後の今どうなった?ブームの痕跡と現在への影響
2017年に巻き起こった熱狂の数々は、約9年が経過した現在、どのような形で残されているのでしょうか。それぞれのブームの「その後」を検証してみると、単に消え去ったのではなく、現代社会のインフラへと昇華している姿が見えてきます。
まず「インスタ映え」という言葉自体は、過度な見栄や演出への反動、そして自然体を好む「BeReal」やTikTokカルチャーの台頭によって死語に近い扱いとなりました。しかし、「写真や短尺動画で視覚的にアピールする」というマーケティング手法は、2026年現在のあらゆるビジネスにおいて完全に前提条件として組み込まれています。
Nintendo Switchは後継モデルへとバトンを繋ぐ段階に入りつつも、世界累計販売台数1億4000万台を突破する家庭用ゲーム機史上の伝説となりました。また、チーズタッカルビは一過性の流行を超え、日本のファミレスや居酒屋の定番メニューとして完全に定着。新大久保はその後もトゥンカロン、10円パン、韓国グリークモモなど次なるトレンドを発信し続ける「流行の実験場」としての地位を不動のものにしました。
ブルゾンちえみとして一世を風靡した藤原史織氏は、その後タレント活動の枠組みを脱し、環境問題の発信や執筆活動など独自のクリエイティブなキャリアを歩んでいます。2017年のブームは、単なる懐古の対象ではなく、デジタルと個人の欲望が結びついた「新しい消費社会の基礎」を作った原点だったのです。
【2017年に流行ったもの】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:2017年の新語・流行語大賞のトップテンには他にどんな言葉がありましたか?
A1:大賞の「インスタ映え」「忖度」のほか、政治関連で話題となった「ちーがーうーだーろー!」「魔の2回生」、将棋界で藤井聡太氏の快進撃から生まれた「ひふみん」「29連勝」、芸人関連の「35億」、社会問題となった「睡眠負債」「ワンオペ育児」、人気アニメの「Jアラート」などが選出されました。
Q2:2017年に大ヒットした映画にはどのような作品がありましたか?
A2:実写映画ではディズニー実写版『美女と野獣』が興行収入120億円を超える大ヒットを記録しました。邦画では『名探偵コナン から紅の恋歌』がシリーズ記録を更新したほか、菅田将暉や小栗旬が出演した実写版『銀魂』、青春ラブストーリー『君の膵臓をたべたい』などが興行界を大きく賑わせました。
Q3:なぜ2017年はこれほどまでに「写真・動画映え」が重視されたのですか?
A3:スマートフォンのカメラ性能が飛躍的に向上したこと、大手キャリアの大容量データ通信プランが定着したこと、そしてInstagramの「ストーリーズ」機能が2016年後半に実装され、2017年にかけて爆発的に利用者を増やしたことが重なったためです。「リアルタイムの日常をビジュアルで切り取る」行為が、日常のコミュニケーション手段として完全に定着した転換期でした。
まとめ:デジタル社会の転換点だった2017年が教えてくれること
2017年に流行ったものを振り返ると、単なる懐かしさ以上に、現在のデジタル消費社会の骨格がいかにこの1年で作られたかに気付かされます。
「インスタ映え」が個人の承認欲求と購買意欲を直結させ、「忖度」が組織の透明性を問い直すきっかけとなり、Nintendo Switchがゲームと生活空間の境界をなくしました。ネット発のカルチャーがテレビを凌駕し、誰もがスマートフォンを掲げて自らの体験を発信するようになった原点が、まさにこの時代です。
激しいスピードでトレンドが消費され、移り変わっていく現代。9年前の2017年に私たちが何に熱狂し、何を選び取ったのかを再確認することは、これからの情報化社会をより冷静に、そして豊かに生き抜くための確かなヒントを与えてくれます。 (出典: 2017 年 流行っ た もの(Yahoo!ニュース))