2014年に劇場公開された映画『クローズEXPLODE』。高橋ヒロシの伝説的不良漫画をベースに、三池崇史監督が熱狂を巻き起こした『クローズZERO』シリーズの続編として制作された本作で、不良の巣窟・鈴蘭男子高校の頂点をめぐる争いの中心に立ったのが東出昌大でした。NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』で国民的好青年としての地位を確立した直後、カラスたちの吹き溜まりへと飛び込んだ彼の抜擢は、当時大きな話題を呼びました。
しかし、前作で主演を務めた小栗旬の圧倒的なカリスマ性と比較され、劇場公開時には激しい賛否両論の嵐が吹き荒れました。興行収入の推移、鬼才・豊田利晃監督が持ち込んだ独特の作家性、そして柳楽優弥や岩田剛典ら豪華共演者たちの凄まじい熱演。公開から10年以上の歳月が流れた2026年の今、当時の喧騒と「東出昌大×クローズ」が遺した映画的価値を徹底検証します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:朝ドラ直後に主演抜擢された東出昌大は、前作の小栗旬が演じた滝谷源治とのキャラクター性の違いから、公開当時に激しい賛否と演技論争を巻き起こした。
- 要点2:柳楽優弥、早乙女太一、岩田剛典ら若き実力派が火花を散らした一方、豊田利晃監督のダークでアートな演出方針が従来の痛快アクション路線を期待したファン層に戸惑いを与えた。
- 要点3:興行収入は約11.4億円と前作から半減したものの、2026年現在では東出昌大の持つ乾いた孤独感と異端の不良映画としての美学がカルト的な再評価を獲得している。
【異例の大抜擢】東出昌大が挑んだ『クローズEXPLODE』と主人公・鏑木旋風雄の虚像
映画『桐島、部活やめるってよ』(2012年)で鮮烈なスクリーンデビューを果たし、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した東出昌大。さらにNHK朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』でヒロインの夫役を好演し、お茶の間の好感度を一身に集めていた彼が次に選んだステージが、血と暴力が支配する『クローズEXPLODE』の単独主演でした。
彼が演じた主人公・鏑木旋風雄(かぶらぎ・かぜお)は、鈴蘭高校3年に突如として転入してきた孤高のアウトローです。過去のトラウマから喧嘩を嫌い、鈴蘭の「てっぺん」争いにも一切興味を示さないという、不良映画の主人公としては極めて異例の内向的な造形でした。
189cmという圧倒的な長身と均整の取れたスタイルは、荒れ狂う鈴蘭高校の生徒たちの中でも異様な存在感を放ちました。しかし、爽やかな青年像が定着していた当時のパブリックイメージと、無口で影を背負った不良少年というキャラクターのギャップは、観客に対して強烈な違和感と驚きを同時に植え付けることになります。
【比較の呪縛】小栗旬・滝谷源治の圧倒的存在感と東出昌大の演技力への賛否両論
本作を語る上で避けて通れないのが、前2作で主役の滝谷源治を演じた小栗旬との比較です。『クローズZERO』および『クローズZERO II』で小栗が見せた源治は、不器用ながらも仲間を率いて頂点を目指す熱血漢であり、山田孝之演じる芹沢多摩雄との激突は日本映画史に残るアクションアイコンとなりました。
前作が築き上げた「熱くストレートなヤンキー活劇」の完成度が高すぎたがゆえに、東出昌大が背負ったプレッシャーは計り知れないものがありました。公開当時、インターネット上の映画レビューや掲示板では、彼の演技に対して厳しい批判が集中しました。
批判の主な槍玉に挙げられたのは、台詞回しの抑揚の少なさや、泥臭い乱闘シーンにおける動きのぎこちなさでした。「台詞が棒読みに聞こえる」「小栗旬のような狂気と求心力が足りない」といった声が相次いだ背景には、鏑木旋風雄というキャラクター自体が「感情を表に出さず、闘争を拒絶する」という受動的な設定だった点が大きく関係しています。
能動的に拳を振るい仲間を鼓舞した小栗旬の源治に対し、東出昌大の旋風雄は終盤まで戦う理由を見出せない青年の葛藤を体現していました。この根本的な構造の違いが、爽快なカタルシスを求めた観客との間に埋めがたい温度差を生み出してしまったのです。
【豪華キャスト一覧】柳楽優弥・早乙女太一・岩田剛典が集った奇跡の座組と現場秘話
現在振り返ると、『クローズEXPLODE』のキャスト一覧は、日本エンタメ界の最前線を走るトップランナーたちが奇跡的に集結した驚異的な布陣でした。主人公を取り巻くライバルや他校の猛者たちには、当時ブレイク前夜あるいは新境地を模索していた気鋭の才能がひしめき合っていました。
鈴蘭内部で最大の勢力を誇る「強羅軍団」の頂点・強羅徹を演じたのは柳楽優弥です。カンヌ国際映画祭で史上最年少の最優秀男優賞を獲得した天才俳優は、狂気と冷徹さを併せ持つ怪演で画面を支配し、「東出を完全に食っている」と批評家筋から絶賛を浴びました。
また、1年の狂犬・加賀美遼平役には大衆演劇の若き至宝・早乙女太一が起用され、しなやかで舞踊のような美しい身のこなしから繰り出される容赦のない格闘アクションで観る者を圧倒しました。さらに、鈴蘭と対立する黒咲工業高校のトップ・柴田浩樹役として、三代目 J SOUL BROTHERSの岩田剛典が出演。銀髪に黒の革ジャンを纏い、傷だらけになりながら仲間を守る硬派な男を熱演し、役者としての大きな足がかりを掴んでいます。
他にも勝地涼、永山絢斗、ELLY、野替愁平、深水元基(リンダマン役)ら、個性豊かな面々が集結。撮影現場は連日、本物の喧嘩さながらの熱気に包まれ、東出昌大自身も共演者たちの凄まじい気迫に食らいつくため、連日痣だらけになりながら過酷な撮影に挑み続けました。
【興行収入と演出の乖離】豊田利晃監督の作家性と「暴走ロック」な主題歌への評価
本作のメガホンをとったのは、三池崇史監督からバトンを引き継いだ豊田利晃監督でした。『青い春』や『ナイン・ソウルズ』で思春期の閉塞感と破壊衝動を芸術的な映像美で切り取ってきた鬼才監督の登板は、シリーズの作風を180度転換させる要因となりました。
三池版がアメコミ的なダイナミズムと痛快な不良エンターテインメントだったのに対し、豊田監督が描いたのは、錆びついた街で出口を見失った若者たちのリアルな退廃美でした。この作家性の変化は、ダイレクトに興行収入の数字となって現れます。
『クローズZERO』が興行収入約25億円、『クローズZERO II』が約30億円の大ヒットを記録したのに対し、『クローズEXPLODE』は約11.4億円と、前作の半分以下に留まる結果となりました。商業的な観点では苦戦を強いられたものの、映画ファンからは独自の美学が高く評価されました。
その象徴が音楽です。主題歌や劇中歌には、Dragon Ashの「Blow Your Mind」をはじめ、豊田組の代名詞であるdip、OLEDICKFOGGY、THE STREET BEATS、MAN WITH A MISSIONなど、アンダーグラウンドの熱狂を宿した硬派なロックバンドの楽曲が惜しみなく投入されました。重厚で埃っぽいガレージロックの爆音とスローモーションを多用した映像の融合は、単なるヤンキー映画の枠組みを超えた純度の高いロック映画としての輪郭を際立たせていました。
【賛否両論の核心】ネットの反応から紐解くシリーズファンのリアルな違和感の正体
公開当時のネットの反応が激しく二分した理由は、プロモーションで提示された期待値と、劇場で観客が目撃した実物とのギャップにありました。
予告編では「新世代の鈴蘭頂点争い」という王道のストーリーが強調されていたため、観客は前作のような爽快な成り上がり劇や、チーム同士の大規模な抗争を期待して劇場に足を運びました。しかし、劇中で描かれたのは、親との軋轢に苦しみ、過去の罪悪感から拳を握れない主人公の憂鬱な青春劇でした。
ネット上では「爽快感がなく画面が暗すぎる」「主人公が最後まで何をしたいのか伝わってこない」という不満の声が噴出。小栗旬演じる滝谷源治が持っていた「バカ正直で愛されるリーダーシップ」とは対極にある、東出昌大演じる旋風雄の「冷え切った孤立感」は、ライト層の映画ファンには受け入れ難い重さを持っていたのです。
一方で、映画玄人や豊田利晃ファンからは「前作の二番煎じに逃げず、本物の不良の痛みをフィルムに焼き付けた」「東出昌大の不器用さが、言葉にできない十代の苛立ちと見事にリンクしている」と熱烈に支持されるなど、観る者のスタンスによって評価が完全に分裂する結果となりました。
【現在の評価】公開から年月を経て再評価される「孤高の不良映画」としての真価
2014年の公開から年月が経ち、2026年となった現在の評価は、リアルタイムの騒乱期とは大きく様相を変えています。
その後の東出昌大は、黒沢清監督の『スパイの妻』や濱口竜介監督の『寝ても覚めても』、映画『Winny』などで唯一無二の存在感を発揮し、ブルーリボン賞をはじめとする映画賞を席巻。山中での狩猟生活や独立など、世間の枠に収まらない生き方そのものが彼の表現力に凄みと深みを与え、日本映画界において代替不可能な実力派俳優として確固たる地位を築きました。
キャリアを重ねた現在の視点から改めて『クローズEXPLODE』を観返すと、当時「棒読み」「ぎこちない」と叩かれた東出の芝居が、世の中に馴染めない少年の空虚さと危うさを表現するための徹底した引き算の演技であったことが理解できます。
柳楽優弥の放つギラついたエネルギーと対峙した際、長身を丸めて感情を押し殺す東出昌大の冷めた佇まいは、漫画原作の実写化という枠組みを逸脱した純文学的な気迫を漂わせています。本作は今や、王道エンタメの続編という重圧を引き受けながらも、独自の作家性を貫き通した「カルト的な名作」として映画ファンの間で静かに愛され続けています。
【クローズ 東出昌大】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:東出昌大が演じた鏑木旋風雄は、漫画『クローズ』の原作キャラクターですか?
A1:原作漫画には登場しない映画オリジナルのキャラクターです。前作の滝谷源治(小栗旬)と同様に、原作者の高橋ヒロシが設定やキャラクター造形を完全監修し、映画版独自の主人公として生み出されました。
Q2:『クローズZERO』の小栗旬や山田孝之は『クローズEXPLODE』に出演していますか?
A2:小栗旬や山田孝之は出演していません。物語は滝谷源治や芹沢多摩雄が鈴蘭高校を卒業した「1ヶ月後」を舞台にしており、世代交代した新世代の鈴蘭高校が描かれています。ただし、伝説の男・リンダマン(林田恵)役の深水元基や、ヤクザの片桐拳役のやべきょうすけなど、一部の主要キャラクターは前作から継続して出演しています。
Q3:作品の興行収入が前作から落ち込んだ最大の理由は何だったのですか?
A3:前作の立役者である三池崇史監督と主演の小栗旬から大幅に体制が刷新されたことに加え、豊田利晃監督の作家性が強く反映されたダークで内省的な作風が、前作の痛快なヤンキーアクションを求めていたライト層の期待と乖離したことが主な要因とされています。
まとめ:10余年を経て浮かび上がる東出昌大の役者魂と作品の意義
映画『クローズEXPLODE』は、前作の巨大すぎる成功と国民的人気俳優・小栗旬の幻影に立ち向かった、東出昌大のキャリアにおける最も過酷で野心的な挑戦でした。公開当時に巻き起こった賛否両論の嵐は、彼が単なるスター俳優の枠に安住せず、生々しい傷や痛みを伴う表現に身を投じた証左でもあります。
柳楽優弥や早乙女太一、岩田剛典ら若き才能たちが火花を散らし、豊田利晃監督が刻み込んだ無骨なロックの美学。そして何より、巨大なプレッシャーの中で孤独に拳を握りしめた東出昌大の剥き出しの存在感は、10年以上が経過した今も色褪せることなく、画面の向こうから観る者の胸を激しく揺さぶり続けています。 (出典: クローズ 東 出 昌 大(Yahoo!ニュース))